キッシンジャー氏と

フジモリ氏と

 灼熱のリマ。大統領府の執務室の壁が、びっしり本で埋まっている。これはすごい、と思う間にフジモリ大統領が現われた。そのとき大統領は訪日を果たしたばかり。その印象を聞くのが狙いだった。大統領は屈託もなく、ときおり日本語も交え話し続けた。ふと話を途切らせた。「そうだ、こっちに来てくれ」と、中庭に案内された。無花果の木があった。氏は裸足になり、スルスルと木に登り、やがて実を抱えて降りてきた。そして「これをふるさとに届けてくれ」と言って、手を差し出したのだ。私が大統領と同郷なのを知っていたのか。そのとき氏は、柔和な眼差しの奥に、父祖から受け継いだ心と故国への愛が結んだ力をのぞかせていた。

 当時、毎日新聞記者であった私は多くの人物に出会い、接触する機会に恵まれたが、とりわけこの二人の読書家に、今も印象深きものをおぼえるのである。

 さて小社は歴史書を主とする出版社として、歴史とくに近代史をひもとく素材を歴史ファンに提供してきた。これまで日本では現実に起こる日常史にばかり関心がおかれ、戦争や軍事がウエイトを占める近代史の研究はとかくなおざりにされてきた。そればかりか「平成」という時代に育った日本人は、過去にさかのぼって永い時間軸をひくという作業を忘れてしまったようである。しかし、わが国を取り巻く状況を鑑みるとき、戦争や軍事の諸問題は現実味を帯び、真剣に取り組むべき時期にさしかかっていると考えられる。この時にあたって、小社の刊行物がこれらの分野の発展にいささかなりとも寄与できれば望外の喜びとするところであり、あわせて今後の出版についても読者諸兄にこれまで以上のご愛顧を賜わらんことを願う次第である。

代表取締役 松藤竹二郎

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